23. ベントナイトの特性とその応用

鬼形正伸
株式会社ホージュン応用粘土科学研究所
〒379-0133 群馬県安中市原市1433-1



1.はじめに
2.ベントナイトの特性
3.ベントナイトの応用
4.おわりに


1.はじめに

「ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイトは、何が違うのでしょうか」「ベントナイトは何故、膨らむのですか」。このような内容の質問を、粘土(ベントナイト)をこれから扱おうとする技術者の方々から時々受けます。ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイトがまるで別の種類の粘土であるかのように捉えられ、また、同列に記載している特許、文献も時々見受けられます。ベントナイトは、タルクやカオリンといった無機工業材料と比べて、あまりポピュラーではありませんが、水中で自身の体積の数十倍に水を吸収して結晶が膨らみ、ナノサイズに分散するというユニークな特性を有しているため、古くから人間に利用されてきた粘土です。
 ベントナイトは、今から数千万年(新世代第3紀中新生)から数億万年(中世紀白亜紀新期)前、火山が噴火し、この火山灰が風によって運搬されて、海底や湖底に堆積し、その堆積物が、温度・圧力とともに浸食、風化作用を受けることによって、また、地熱による熱水作用を受けることによって、鉱床が生成されました。1888年に米国ワイオミング州Fort Bentonで発見され、その地名に因んでベントナイトと命名されました。アメリカ、ロシア、ギリシャ、イタリア、日本、インド、中国等、世界各地で産出され、日本での年間生産量は50万トン程度で、輸入品を含めて、65万トン程度が日本国内で使用されています。ベントナイトは粘土鉱物モンモリロナイトを主成分とし、クォーツ、クリストバライト、ゼオライト、長石、方解石等の随伴鉱物を含んでいる粘土です。水中で膨潤し、各種化学物質を吸着、イオン交換する等、無機物質としては特異な多機能を有し、また、層状のナノザイズの結晶を有しているため、今日、様々な工業分野、例えば、土木におけるレオロジー性、泥壁形成性及び潤滑性付与剤、鋳物における粘結剤、動物における排泄物の固化材、農薬における粘結剤、除放剤、農業における土壌改良材、廃棄物処分における遮水材、バリヤ材、食品等における吸着剤、最近ではプラスチックにおける機能性フィラー材等、化学工業に利用される分野は多岐に渡っています。本稿ではベントナイトの特性と工業的な用途について述べます。

2.ベントナイトの特性

2−1.結晶構造

モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト等のように、膨潤する機能等を有する粘土鉱物のグループをスメクタイトといいます。このスメクタイトの代表的な粘土鉱物であるモンモリロナイトを主成分とした粘土がベントナイトであり、ベントナイトの特性は、モンモリロナイトの性質及びその含有量によって決定されます。モンモリロナイトは、厚みが約1nmの薄い板状結晶が積み重なった層状構造を形成しております。1枚の結晶は、4つの酸素を頂点とし、その中央に珪素が入りこんだSi4O6(OH)4の四面体構造、その構造がシート状に連なった四面体シートの間に、6つの水酸基を頂点とし、その中央にアルミニウム、またはマグネシウムが入り込んだ、Al2(OH)6、またはMg3(OH)6の八面体構造、それがシート状に連なった八面体シートが挟まれた三層からなるアルミノシリケート層です。結晶の横方向の長さは学術的には1000nm程度と言われていますが、実際の電子顕微鏡観察やレオロジー解析結果からは、200から300nm程度です。八面体構造中の3価のAlが、部分的に2価のMg、Feに置き替わっている、学術的には、このことを同形置換と呼びますが、即ち、結晶が電荷的に歪んでいるため1枚の結晶は電荷が不足し、その結果、結晶層面にはマイナスの永久層電荷を帯びます。その電荷を補償するために結晶同士の間である層間には、地中に多く存在しているNa、Kのようなアルカリ金属やCa2、Mg2のようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されています。これらの陽イオンは、水分子を水和した状態で存在し、他の陽イオン、例えば有機陽イオン等と自由にイオン交換することが可能です1。天然ベントナイトの交換性の陽イオンはNa、Ca2、Mg2、Kの4種類から成り、Naイオンが主であるベントナイトをNa型ベントナイトといい、水中での膨潤、増粘、分散性が優れております。Ca2イオンが主であるベントナイトをCa型ベントナイトといい、Na型ベントナイトよりも膨潤、増粘、分散性は劣りますが、吸着性が優れております。工業的にCa型ベントナイトに数wt.%のNa2CO3を加えて、Ca型をNa型にしたものを活性化ベントナイトといわれ、Na型ベントナイトと同様な特性を示します。

2−2.イオン交換

Naイオンを層間に持つ理想的なNa型モンモリロナイトの構造式は[Na2/3Si8(Al10/3Mg2/3)O20・(OH)4]で表され、化学式量は734です。667meqのNaイオンを吸着していることから理論陽イオン交換容量(CEC)は91.5meq/100gとなり、モンモリロナイト100g当たり5×1022個のNaイオンを結晶層面に吸着している計算となります。層間の交換性陽イオンはイオン交換によって、イオン濃度にも依存しますが原子価の高いイオン程、同じ原子価の場合はイオン半径の大きい程、より選択的にそれら陽イオンが層間に挿入(インターカレート)します。無機陽イオンにおける順列は、以下の通りです2

Li<Na<K<Mg2<Ca2<Ba2<Al2<Fe3<H

水素イオンはモンモリロナイト結晶層面に存在する酸素と特別な結合、即ち、水素結合することにより、多価陽イオンよりも優先的に結晶層間にインターカレートします。ベントナイトを塩酸や硫酸にて処理した酸処理ベントナイトは結晶層間の陽イオンが水素イオンからなり、また、酸による結晶の溶解により、表面積が増加するため、優れた吸着性を示します。
 これら無機陽イオンよりも分子量の大きな有機陽イオンは、より優先的に層間にインターカレートします。長鎖アルキル基を有する4級アンモニウムイオンがイオン交換によって層間にインターカレートした複合体である有機ベントナイトは、強い親油性を示し、石油系炭化水素類やベンゼン、トルエン、キシレンのような比較的低極性の有機溶剤が長鎖アルキル基と溶媒和することによって層間に取り込まれて膨潤します3。このため有機溶剤系のレオロジーコントロール剤として広く利用されています。陽イオン染料であるメチレンブルーイオンは1分子あたり1.3nm2の分子占有面積を有し、モンモリロナイトと定量的にイオン交換によって吸着し、メチレンブルーイオン-モンモリロナイト複合体を形成します。モンモリロナイトのメチレンブルーイオン吸着量は、モンモリロナイト100g当たり100mmol程度なので、モンモリロナイトが水中で分散した時の表面積である内部表面積は、100mmol/100g/100×6×1023×130×1010=780m2/g程度と計算できます。この値は体積基準で2000m2/cm3(粘土)となり、活性炭に匹敵します。また、メチレンブルーイオンはモンモリロナイトのみに吸着され、ベントナイト中の随伴鉱物には吸着されないため、ベントナイト中のモンモリロナイトの定量方法としても利用されています。乾燥したNaベントナイト粉末を水に十分に分散させ、モンモリロナイト以外の比重の大きな随伴鉱物を自然沈降及び遠心分離機を使って除去した高純度モンモリロナイトは精製ベントナイトといわれ、膨潤性、増粘性、分散性、吸着性に優れ、化粧品、塗料等のファインな分野で使用されています。この精製ベントナイトを1molのNaClやCaCl2のような電解質水溶液中に数時間、分散させ、遠心分離、上澄液の除去操作を数回繰り返し、最後にエタノール水溶液を加えて、上澄液中に塩素が観察されなくなるまで洗浄を繰り返して作製したモンモリロナイトは、層間の交換性陽イオンが人工的に一種類の陽イオンからなり、ホモイオニックモンモリロナイトをいわれ、学術研究用に利用されています。

2−3.膨潤、分散、会合

モンモリロナイトは水と接触すると、層間の交換性陽イオンに水分子が次々に水和するため結晶の底面同士の間隔である底面間隔が増加して膨潤します。ことによって、先ず、層間の交換性陽イオンに水分子の酸素原子が配位結合し、第1水和殻を形成する。Na型モンモリロナイトは、Naイオンの介在によるアルミノシリケート層同士の電気的引力が弱いため、Naイオンに水分子が水和して層間に次々に水分子をインターカレートし、底面間隔が4nm以上に広がった状態であるオスモチック膨潤を示し、巨視的な体積膨張を示します。一方、2価陽イオンのCa2、Mg2イオンを層間に持つCa型、Mg型モンモリロナイトは、これらの交換性陽イオンの介在によるアルミノシリケート層同士の電気的引力が強いため、層間への水分子のインターカレートが制限され、底面間隔が4nm以下の限定した微視的膨張である結晶性膨潤を示します。Naイオンと同じ1価の陽イオンであるKイオンを層間に持つK型モンモリロナイトは、Kイオンの大きさが、モンモリロナイト結晶層面の酸素から成る表面酸素六員環のザイズとほぼ一致し、Kイオンが固定化されて安定な構造を形成するため、結晶性膨潤を示します。
 アルコール、アセトンのような有機溶剤もまた、層間の交換性陽イオンと溶媒和して有機溶剤をインターカレートすることができます。しかし、これらの有機溶剤は、層間に1ないし2分子層(底面間隔で1.4から1.9nm程度)しかインターカレートできず、結晶性膨潤を示します。表1(PDFファイル)に各溶剤の物理特性とそれらの溶剤を混合した時のモンモリロナイトの底面間隔を示します。するにすぎない。水以外でモンモリロナイトをオスモチック膨潤させる有機溶剤としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミドが知られています4。水及びこれらの有機溶剤は、交換性陽イオンに溶媒和することができる性質である電子対供与性の尺度を示すドナー数(DN)5、溶剤同士が分子間水素結合を形成することができる性質である電子対受容性の尺度を示すアクセプター数(AN)6がともに大きい溶剤です。
 図1に、Na型モンモリロナイトにDNの大きい溶剤、並びにDN、ANがともに大きい溶剤を混合した時の膨潤挙動を示します。モンモリロナイトにDNの大きな溶剤を混合すると、DNの大きい溶剤は、モンモリロナイトの交換性陽イオンと溶媒和し交換性陽イオンの回りにDNの大きい溶剤から成る第1溶媒和殻を形成します。しかし、DNの大きい溶剤は、新たに層間へインターカレートする能力がないため、結晶性膨潤を示します(図2−a)。一方、水、ホルムアミドのようなDN、ANがともに大きい溶剤は、先ず交換性陽イオンと溶媒和して第1溶媒和殻を形成し、また、溶剤同士の分子間水素結合を形成する能力があるために第1溶媒和殻の回りに第2溶媒和殻が発達しオスモチック膨潤を示すようになります(図2−b)。
 つまり、DNとANのともに大きい2官能性の溶剤が、モンモリロナイトをオスモチックに膨潤することができる溶剤といえます7

図1 溶剤のドナー数(DN)、アクセプター数(AN)によるモンモリロナイトの膨潤挙動 図2 モンモリロナイトの水中における膨潤および会合構造

 八面体構造に由来する水酸基を有する結晶端面は、pHによって電荷が変化するpH依存電荷を示し、酸性領域ではプラス、中性領域では中立、アルカリ領域ではマイナスの電荷を帯びます8。酸性領域でのモンモリロナイトの陰イオン交換容量(AEC)は20meq/100g程度で、無機及び有機陰イオンが結晶端面に吸着します。ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダは、この結晶端面に吸着して水中におけるモンモリロナイトの分散剤として作用し、水中で膨潤したモンモリロナイト結晶同士をより分散させます。また、結晶端面の水酸基はシリル化剤と反応することができます。例えば、アルキルトリアルコキシシランで処理したモンモリロナイトは、結晶層面は親水性のままで結晶端面にアルキルシリル基が付加して疎水性となった、部分疎水性のモンモリロナイトが形成でき、その水分散液のレオロジー特性は、アルキルトリアルコキシシランのアルキル基の炭素数の増加とともに、分散性が向上し、無処理モンモリロナイトよりも水系のレオロジー特性粘性が急激に更に向上する増加します9
 水中で十分に分散させたモンモリロナイト水分散液を静置状態に置くと、マイナスの電荷を有する結晶層面とプラスに帯電する結晶端面がお互いに引き合い、立体的な会合構造(カードハウス構造)を形成することによって構造粘性(チキソトロピー性)を発現します。図2にモンモリロナイトの水中における膨潤及び会合構造モデルを示します10

2−4.ベントナイト水分散液の粘性11-15

 ベントナイト水分散液の粘性は、モンモリロナイト結晶同士の相互作用によって大きく影響します。モンモリロナイト結晶同士の相互作用として、集合 (Aggregation)、分散 (Dispersion)、凝結 (Flocculation)、解膠 (Deflocculation)の各状態があり、そのモデルを図3に示します。それらの特徴を述べると以下の通りです。集合 (Aggregation)は結晶同士の層面-層面との結合であり、水分散液中での結晶粒子数が減少し、その結果、粘性が低下します。
 集合はCa2+イオンのような電解質の添加によって生じ、最初、粘性は増加し、その後、時間とともに低下します。分散 (Dispersion)は集合の逆の状態であり、結晶粒子数は増加し粘性は増加します。凝結 (Flocculation)は結晶同士の端面-端面、または層面-端面結合であり、粘性とゲル形成能が増加します。解膠 (Deflocculation)は凝結した結晶同士の分離であり、解膠剤を添加することによって結晶同士の端面-端面、または層面-端面の引力を弱められ、粘性は低下します。

図3 モンモリロナイト結晶同士の相互作用

2−5.電解質、pHが粘性に与える影響

ベントナイト水分散液に各濃度の電解質(NaCl)を添加、及び各濃度のNaCl水溶液にベントナイトを直接添加した時の粘性挙動を図4に示します16,17。NaCl無添加では結晶層面、端面における電気二重層(モンモリロナイトの層電荷と層面に吸着しているNa+イオンのような対イオンを併せた層)は十分に発達し、層面-端面結合であるカードハウス構造が形成され、高い粘性を示します。しかし、数10mg/lのNaCl添加により結晶層面、端面の電気二重層は圧縮され、層面-端面の引力及び層面-層面反発力が減少し、その結果、カードハウス構造が崩壊されるため粘性は低下します18)。数100mg/lのNaCl添加によって結晶層面、端面の電気二重層は更に圧縮され、層面と端面との引力は強められ、再び、層面-端面引力と層面-層面反発力とのバランスによってカードハウス構造を形成しやすくなります。それと同時にファンデアーワールス引力による端面-端面結合が形成され、粘性は増加します。更に数1000mg/lのNaCl添加によって層面-層面結合が発達し、またはモンモリロナイトが脱水して結晶粒子数の減少することにより粘性は低下します。このように、予め水和させたベントナイト水分散液に電解質を添加していくと、上述したような特異な粘性挙動を示します。しかし、各濃度のNaCl水溶液中にベントナイトを直接添加すると、その粘性はNaCl濃度の増加とともに急激に低下し、全く増粘性を示さず、モンモリロナイト結晶同士が凝集、沈殿してしまいます。
 

図4 各濃度のNaCl水溶液での粘性挙動

 電解質水溶液中でのモンモリロナイトの分散安定性を高めるためには、マイナスの電荷を帯びる結晶端面への無機及び有機陰イオンの吸着よって分散安定性が向上します。また、予めモンモリロナイトに極性有機溶剤のプロピレンカーボネート(PC)を添加、混合したものを各濃度のNaCl水溶液に分散させると粘性は増加します。図5に各濃度のNaCl水溶液におけるモンモリロナイト及びモンモリロナイトに対してPCを25wt.%複合した時のモンモリロナイト結晶の底面間隔を示しています。底面間隔は0.3 mol -NaCl濃度で2.0から4.0nmへ急激に増加するのに対して、PC複合体の面間隔を示す。モンモリロナイトの面間隔は0.3Mの濃度で20Åから40Åへ急激に増加しているのに対して、 PC-モンモリロナイトは1.0 molで2.0から4.5nmへ急激に増加します。つまり、PC処理によってモンモリロナイトの結晶性膨潤からオスモチック膨潤を示すNaCl水溶液濃度は、0.3 molから1.0 molに増加します19) 。PC処理量を増加するとオスモチック膨潤を示すNaCl水溶液濃度は、更に高濃度側にシフトします。PC以外で電解質水溶液中でのモンモリロナイトの膨潤性を発達させる溶剤としてはアセトン(DN=17)、スルホラン(DN=14.8)、アセトニトリル(DN=14.1)等があります。これらの溶剤は、DNが水の18よりも小さい溶剤です。水よりもDNの小さい溶剤は、電解質水溶液中でモンモリロナイト層間の交換性陽イオンに水和している減少した水和核の回りに、この水よりもDNが小さい溶剤が溶媒和殻を形成するために膨潤性が向上し、その結果、粘度が増加すると考えられます。
 

図5 各濃度のNaCl水溶液中におけるプロピレンカーボネート(PC)複合体の底面間隔

 ベントナイト水分散液のpHを変動した時の粘性挙動を図6に示します20,21)。pHが7から9.5の範囲で粘性は最も低下します。アルカリ領域ではpHが9.5から12程度に増加するとともに粘性も増加します。一方、酸性領域ではpHが7.5から4程度まで低下すると粘性は増加し、pH4以下になると逆に粘性は低下する傾向を示します。スメクタイトの結晶端面の等電点はpH7付近であり、酸性領域では、端面はプラス電荷となるため層面-端面会合は強められます。pH 4付近の粘度の増加は、結晶層面-端面の会合であるカードハウス構造の形成と考えられます。pH 4以下での粘度低下は、層間に優先的に吸着されるHイオンによるNaイオンとのイオン交換による膨潤、分散性の低下によると考えられます。pH 4以上ではプラス電荷を有する端面の電荷密度が低下して、カードハウス構造が破壊されるため粘度が減少し、アルカリ領域下では、層面、端面ともにマイナスの電荷になり、層面-層面会合の発達により粘性が増加します。

図6  各pHでの粘性挙動

2−6.有機物の分解

有機溶剤のような有機分子は、層間の交換性陽イオンと配位結合、またはイオン-双極子相互作用することによって層間に有機分子をインターカレートして有機分子複合体を形成します22-25。通常、モンモリロナイト層間の交換性陽イオンには、水分子が水和しており、図2にモンモリロナイトの交換性陽イオンの違いによるオスモチック膨潤と結晶性膨潤を示す。交換性陽イオンに直接水和した第1水和殻の水(水0.2g以下/g粘土)は、通常の水(自由水)とは異なった特性を示し、密度は1.4、粘性は自由水の100倍、誘電率は3〜60、pHは1、特にCa2やMg2のような分極力(Z/R;陽イオンのイオン半径Rに対する電荷Zの比)の大きな陽イオンに直接水和した水は、500℃の高温でも蒸発せず、高圧でも流出しない等、特異な物性を示します8。水分子または有機分子が交換性陽イオンに配位する順序は、前述したように電子対供与性の尺度を示している溶剤の特性値であるDNの大きさによって決定されます。水分子のDN(=18)よりも有機分子のDNが小さいならば、水分子は、交換性陽イオンに有機分子よりも優先的に水和し、有機分子はこの水分子を介在として交換性陽イオンと配位する構造を形成します。交換性陽イオンに直接水和した水分子は、酸として、またはプロトン供与体として働くために26-29、モンモリロナイトによる各種有機化合物の分解が報告されています30-33。交換性陽イオンに優先的に水和した水分子の一部は、交換性陽イオンの分極力、または加熱によって分極を高められてOHとH+に解離し、この極性化された水分子を介在して有機分子が配位すると有機分子は分解し、その分解量は層間の交換性陽イオンに水和した水の量に制限されます34)

3.ベントナイトの応用

ベントナイトの国内年間生産量50万トン程度の内、用途別では土木、鋳物分野が各15から20万トン程度を占め、猫砂が8万トン程度で、これらの3つの用途で全体の90%を占めます。次に農薬、肥料、ボーリングがこれに続きます。

3−1.土木工事のレオロジー性、泥壁形成性及び潤滑性付与剤35)-38)

基礎工事において、ドリルで地中に円筒状の深い穴を開けていくと、単に穴を掘り進んでいったのでは側壁が崩壊してしまいます。このため、ベントナイト泥水(安定液)をこの掘削孔に満たしながら掘削を行うと、ベントナイト中のモンモリロナイトの板状結晶が地層中に浸透して薄い泥のケーキ(マッドケーキ)を形成し、地層が安定します。その結果、深い深度の掘削が可能となります。また、ベントナイト泥水はチキソトロピー性を有しているため、掘削液中に混入する土砂などの堀くずの沈澱を抑え、泥水中にこれらを留めておくことができます。最終的にこの掘削孔に鉄筋を挿入し、掘削孔を満たしている安定液とコンクリートを置き換えることによって、地中にコンクリートからなる柱を形成することができます(アースドリル工法)。その他、トンネル工事において、地中にトンネルを掘る場合、外径が2mから4m程度の泥水シールドマシーンの先端から泥水を流し、掘削のための潤滑材として掘削土砂を排出し易くするために使用されています(シールド工法)。また、トンネルの裏側に生じた隙間に注入するセメント、ベントナイト、水を混合した裏込め材として、ボーリング用の潤滑剤としても利用されています。

3−2.鋳物の粘結剤39)

鋳物とは鋳型内に作りたい物と同じ空洞を作り、そこに溶融金属を流し込み、凝固させて出来た物をいいます。鋳物の技術がわが国へ渡来したのは弥生時代の初め、紀元前300年頃と言われており、大仏から仏像、釣鐘などで知られるように仏教により栄えたと言えます。仏像や鐘などは粘土で型を整形して空洞を作り、乾燥させて鋳型を作ります。これに対して川砂や浜砂にベントナイトを加えて水で練り合わせて整形する方法が有り、乾燥させないで整形するため、生型(なまがた)と呼ばれています。ベントナイトは砂の粒子同士をつなぎ合せる“のり”の役目で使用されており、安価でしかも簡単に入手できること、鋳型の成型が加圧成型で済むこと、少量補填するだけで数十回の繰り返し使用が可能であることから、自動車のエンジンや部品成形の粘結材として良く利用されています。欠点は、鋳型の強度が制限されるため、工作機械や船舶のエンジン等、大型鋳物にはあまり適しません。

3−3.動物における排泄物の固化材(猫砂)

粒状のベントナイトは、動物の尿を吸収することによって、ベントナイト粒子同士が粘結して固化し、その部分を取り出して除去することができ、動物用トイレを清潔に保つことが出来ます。ベントナイトが尿を吸収して封じ込め、更に尿中のアンモニアの分子サイズがモンモリロナイト結晶層面の表面酸素六員環に近いため、アンモニア分子が結晶層面に固定され、臭いの発散を防ぐことができるため1991年頃から日本でも動物の尿の固化材として大量に使用されるようになりました。

3−4.農薬の粘結材、除放材40)-41)

除草剤における粒剤を作製するときの粘結材としてベントナイトは使用され、粒剤の強度が増加し、粉化の防止に役立ちます。また、農薬を染み込ませた粒剤を水田に散布すると、ベントナイトの膨潤、崩壊性を利用して農薬成分が水田中に徐々に放出され、農薬の効果が長続きします。

3−5.吸着材

ベントナイトは化粧品原料、食品添加物として認知され、重金属が50ppm以下、砒素が2ppm以下等の基準のもとに医薬品に使用でき、食品衛生法にも記載されております。例えば、精製したベントナイトはワインや酢の清澄剤として利用されています。利点は、1)タンパク質の除去、2)銅の除去、3)ポリフェノールオキシダーゼの吸着及び除去、4)機械的吸着による清澄化である。欠点としては、1)赤色色素の吸着、2)ビタミン及びアミノ酸の除去などです。白ワイン、ロゼにはベントナイトを使用できますが、赤ワインはポリフェノールが吸着されてしまうためベントナイトは使用されていません。その他、ベントナイトの吸着性を利用して排水処理剤にも利用されており、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、PAC(ポリ塩化アルミニウム)のような凝集剤と一緒に凝集剤の働きを助けるため粉末活性炭、アルギン酸ソーダとともに凝集助剤として使用されています。

3−6.土壌改良材42)-46)

水田は適度の排水のあることが稲作に対して好ましいと考えられており、日浸透量は20〜25mm/day が適当です。漏水の全く無い水田では、潅漑水による酸素の供給が不足するため、土壌は強い還元状態となり、水稲は被害を受けます。一方、漏水が多い水田では、水温地温の低下をまねき、冷水の害を受けやすくなります。漏水田1ヘクタールあたりベントナイトを1から1.5t程度施用し、充分に混合、シロカキを行うことにより、土壌の漏水が著しく抑制され、肥料の流出は減少するため肥料成分の持続性が増大して施肥料を1/2〜2/3に節約できす。また水温地温が2〜4℃高まるので、それらの総合結果として水稲の収量は10〜20%増収すると言われています。

3−7.遮水材、バリヤ材47)-49)

農業用やゴルフ場のため池の遮水材として、また各種廃棄物処分場の汚染物質の封じ込めバリヤ材として高密度ポリエチレンやゴム・アスファルト、ポリ塩化ビニールのような高分子のジオメンブレンや、ジオメンブレンに顆粒状のベントナイト粘土を複合させたジオシンセチッククレーライナー等が、遮蔽構造に広く利用されています。ベントナイトは、水による膨潤及び水の移動を拘束することにより、低い透水係数を有し、地殻変動や、施工時によって生じたジオメンブレンの亀裂部分を塞ぎ、拡散による汚染物質の漏洩を防止することが出来ます。

3−8.機能性フィラー材50-56

二軸押出機等を用いて溶融したプラスチック中に有機ベントナイトを混練し、有機ベントナイトの層状結晶構造をナノレベルまでに剥離分散させることによって、プラスチックの強度、弾性率、熱変形温度等の機械的特性、ならびに難燃性、ガスバリア性等の向上を目的としたポリマーナノコンポジット材料が研究、実用化されています。

. おわりに

ベントナイトの特性とその応用として工業的用途について述べました。上述したようにベントナイトの工業的用途では、土木、鋳物、猫砂で大部分を占めます。しかし、過去十数年間のベントナイトに関する出願特許内容を分析してみると、土木、鋳物、農業、ペットのような既存分野での特許件数に対して、新規分野での特許件数はその3倍以上にのぼり、新規分野の中でもプラスチック関連の特許が半分以上を占めています。その次にセラミック、吸着剤、紙、化粧品の順番となっております。このことからも、ベントナイトは工業材料として今後、益々可能性を秘めた粘土であるといえます。

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