20. 粘土複合体における光化学測定および光化学反応

高木慎介
首都大学東京都市環境学部材料化学コース
〒192-0397 東京都八王子市南大沢1-1


1. はじめに
2. 粘土複合体の光化学測定法
  2.1. 光化学測定における粘土
  2.2. 粘土複合体の光化学測定法
    2.2.1. 吸収スペクトル測定
    2.2.2. 発光スペクトル測定
    2.2.3. 励起状態の観測
3. 粘土複合体における色素の性質
  3.1. 吸収スペクトル
  3.2. 発光スペクトル
4. 粘土複合体における光化学反応
  4.1. 光化学反応の実験方法
  4.2. 光化学反応の解析
  4.3. 粘土複合体の光反応例
5. 材料への応用
6. まとめ

1. はじめに
 本稿では、粘土複合体における光化学測定、および光化学反応について述べたいと思います。本題に入る前に、粘土鉱物と光化学について少し触れたいと思います。
近年、化学反応場の重要性が様々な分野において認識され、その展開が期待されています。一般的な反応場として、気相、液相、分子集合体(ミセル、ベシクルなど)、固体表面、層状化合物(粘土鉱物など)、ケージ状化合物(ゼオライトなど)、固相などが挙げられます(図1)。ここでの順番はおおよそ、ゲスト分子の規制度が高くなる(自由度が低くなる)ように並べてあります。目的に応じてこれらの反応場が、選択、利用されます。これらの反応場の中で、層状化合物は適度な規制度と自由度を併せ持つ興味深い反応場を提供します。一般に粘土鉱物表面は極めて平滑性の高い二次元平面を提供します。一方で、粘土層間距離が可変であるなどの柔軟性を併せ持ちます。誤解を恐れずに言えば、層状化合物はミセルのように不安定でなく、ゼオライトのように構造変化不可能ではありません。このような粘土鉱物は、基礎研究や、工業的利用まで様々な分野で用いられています(3,4章など参照)。粘土シートの厚さが約1nmであることから、ナノテクノロジーへの応用についても期待されています。粘土鉱物の構造などについては、1章などを参考にして頂きたいと思います。

 一方、光化学反応は、従来の熱反応では不可能な反応を実現できる、化学・電気エネルギーの生産ができる(光エネルギーから化学、電気エネルギーへの変換)、反応の誘起や分析に極めて高い時間分解性を有する(フェムト=10-15秒)、位置、エネルギー選択反応ができる、などの特徴をもっています。特に、近年の環境問題、エネルギー問題とも関連して光エネルギーの有効利用が注目されています。特に二酸化チタンを代表とする光触媒は様々な分野で実用段階に入っています。色素増感太陽電池などの開発も注目されています。材料分野においても、インキ、顔料からCD-R用色素まで幅広い分野で光化学の技術が大いに利用されています。近未来においてはエレクトロニクスからフォトニクスへの転換が標榜されており、光機能性材料が注目されています。
 このように、粘土鉱物も光化学も、環境問題やナノテクノロジーの観点から極めて重要な題材です。すなわち、これらを組み合わせる事は大変興味深い事であると考えられます。本稿では、粘土複合体における光化学測定法、および、光化学反応について述べたいと思います。各種実験法を粘土試料を前提に概説し、かつ、粘土複合体中における色素分子の性質について概観し,近年の粘土複合体における光化学反応における研究例をいくつか紹介します。

2. 粘土複合体の光化学測定法
 光反応を行おうとする場合や、光機能性材料としての性質を明らかにするためには、光を吸収する分子の光化学的性質(吸収スペクトル、発光スペクトル、励起状態の寿命など)を知ることが必要です。以下に、溶液系、固相系における測定について粘土複合体試料を前提に記します。

2.1. 光化学測定における粘土
 まず、粘土そのものの光化学的性質について触れたいと思います。粘土の光学的性質として屈折率や白色度などが測定されています。一般的な粘土鉱物では屈折率は1.48-1.70の範囲におさまります。実際に光反応に使用する時には様々な要素が反映します。特に光の吸収については粘土の組成に依存します。すなわち、鉄などの遷移金属を含む粘土についてはその元素に基づく吸収が生じます。天然由来の粘土鉱物ではこの吸収はしばしば大きな問題となります。一方、化学合成粘土においては、その構成元素を限定できるため、極めて高い白色度が得られます。通常、光化学測定、光反応に用いる場合は無色である方が都合が良いと言えます。有色である場合、ゲスト分子(色素)の光吸収を妨害する可能性があるためです。光の吸収以外に、実際には光の散乱が問題となることが多くあります。光の散乱については、粘土粒子の粒径、屈折率、集合状態などが密接に関連し、その制御は容易ではありません。しかし、溶液系の場合は、粒径の小さい粘土を用い、かつ、無限膨潤させ粘土シートを一枚ずつに剥離させることでかなり透明な溶液を得ることができます。剥離せずゲスト分子がインターカレーションされている場合でも、十分散乱が抑えられた吸収スペクトルの測定例があります。条件によっては、色素の吸収が十分観察可能な粘土濃度においても、測定波長が200-800 nmでの吸光度測定が十分可能です。一方、粘土シートが積層した固相系においても、条件によってはかなりの透明度を得ることができます。粘土や層状半導体において、有機物と複合化させることでガラス基板上に透明な膜を形成させたという報告があります。また、ある種のマイカにおいては非常に大きく、かつ透明な単結晶が溶融合成できることが知られています(15章参照)。層状半導体においても、大きな単結晶が合成され、インターカレーションされた色素分子の配向観察などが行われています。

2.2. 粘土複合体の光化学測定法
2.2.1. 吸収スペクトル測定
 粘土複合体中に存在するゲスト分子のスペクトルを測定するためには、透明な溶液では通常の透過型の吸収スペクトル、懸濁溶液や固相系では拡散反射スペクトルを用います。前者では通常の紫外可視分光光度計があれば良く、後者では積分球(integrating sphere)が必要となります。積分球とは、内部が全て硫酸バリウム等の反射材で覆われ、試料により散乱された光がすべて検出器に集まるように設計されたものです。多くの紫外可視分光光度計はオプションとして積分球を取り付け可能となっています。粘土複合体においては、しばしば拡散反射スペクトルの測定が必要になるでしょう。

 希薄な濃度の粘土水溶液などでは、透過型の吸収スペクトルの測定が可能です。粘土表面に吸着した色素分子の吸収スペクトルなどが、この方法により測定されています。透過型の吸収スペクトルでは、通常、吸光度を測定します。吸光度 Aは式1により定義される値であり、入射光強度(I0)と透過光強度(It)の比から求められます。%Tは透過率であり、吸光度と並んでよく用いられます。εはモル吸光係数(L mol-1 cm-1)、cは光吸収分子の濃度(mol L-1)、lは光路長(cm)です。吸光度 Aを、cおよびlで割れば直ちにεを決定することができます。この関係をLambert-Beerの法則と呼びます。

ここで、吸光度 Aの値を用いることにより、光吸収物質によって吸収された光量を求めることができます(式2)。

 粘土試料ではしばしば半透明な試料を測定する必要があると思われます。半透明な試料は通常の透過型の装置設定でも測定できますが、積分球を利用した方がよいスペクトルが得られることが多くあります。試料を積分球の入口窓部に配置し、透過、および散乱してきた光を積分球により計測し、透過率%Tを求めます。試料によっては、Kirchoffの式(3)を用いて、吸収率を表現する場合もあります。ここで、%Aは吸収率、%Tは透過率、%Rは反射率です。積分球を用いて%T、%Rを測定し、%Aを求めることができます。反射率%Rは試料を積分球の出口窓部に配置して測定します。

 粘土試料の測定においてはしばしば粉末の形態をとっていることがあると考えられます。そのような試料においては圧縮成形し拡散反射スペクトルを測定します。この場合は積分球の出口窓部に試料を設置して測定します。しかし、拡散反射スペクトルでは,吸収波数位置は透過スペクトルと同じですが,透過スペクトルでの弱いピークが比較的強くなって現われるために,ピーク間の相対強度が透過スペクトルと異なります。このため定量的な解析を行うときには、しばしばKubelka-Munk式(4)が用いられます。Kubelka-Munk式は不透明試料の吸収を拡散反射光より求める式であり、以下のように表現されます。

ここで、f(Rd)はKubelka-Munk関数、Rdは標準試料(通常は硫酸バリウム)に対する相対的反射率、αは吸収係数、Sは散乱係数を示します。通常、Sの波長依存性はほとんど無視できるので、f(Rd)はαに比例すると考えられます。すなわち、f(Rd)は試料の濃度に比例するため、波長に対してf(Rd)を測定することにより吸収スペクトルに相当するものを得ることができます。実際には、粉末試料から放射される光には,拡散反射光以外に正反射光も含まれます。正確な拡散反射スペクトルを得るためには、正反射光を減少させるために、粉体の粒径が小さい(測定波長と同程度以下)方が有利です。 試料によっては、KBr等で適当な濃度に希釈して測定します。
 やや特殊な方法ですが、近年、導波路ガラス上におけるエバネッセント波を利用した吸収スペクトル測定が行われつつあります。試料を導波路ガラス上に配置し、導波路ガラス上に存在するエバネッセント波との相互作用を利用する方法です。この方法では、導波路ガラス内をモニター光が数十回反射するので極めて高感度な測定が可能となります。すなわち、粘土シート一層のみの試料でも吸収スペクトルが測定可能となります。従来の方法では、粘土単層の状態を測定する事は極めて困難でしたので、全く新しい粘土複合体の性質を見いだす可能性のある興味深い測定法だと言えます。
 いずれの方法においても、測定の際には、ゲスト分子(色素)の濃度に留意する必要があります。一般に粘土表面や粘土層間では分子の会合が促進されることから、その会合体の形成に注意を払わねばなりません。すなわち、色素の濃度(粘土への吸着量)によって、吸収スペクトルが変化する可能性に留意すべきであると言えます。

2.2.2. 発光スペクトル測定
 発光スペクトル測定は極めて高い感度を有する有用な測定法です。一般に励起一重項状態からの発光を蛍光、励起三重項状態からの発光をリン光と呼びます。蛍光スペクトルの測定については、十分透明な試料については通常の四面透明セルを用いた蛍光測定法が適用できます。懸濁溶液や固相系では、粉末試料セルや結晶支持ホルダーを用いて表面の発光を測定します。粘土試料では、しばしば懸濁系、固相系における測定が必要になると思われます。懸濁溶液や吸収の強い試料を測定する場合には、通常の四面セルを用いた側面観測で(図4(b))はなく、三角セルなどを用いた前面観測(図4(a))を行った方が、蛍光強度も強く、スペクトル形状についても正確な測定ができることがあります。吸光度の大きい試料を測定する時には、発せられた蛍光が再吸収され、蛍光の短波長側の成分が削られたスペクトル形状を与えてしまうことがあるためです。側面観測では、励起波長の吸光度が1を超えたあたりから蛍光強度が減少するのに対し、前面観測では吸光度が5に達しても蛍光強度は増加を続けます。ただし、吸光度が小さい時には側面照射の時の方が蛍光強度が大きいこともあるので、測定法を適宜選択する必要があります。励起光の反射光を避けるため、45度以外の角度を有する三角セルが用いられることもあります。例えば、入射光に対して30度傾いたセルを用いることで、反射光が減少し、かつ入射光がセル表面の広い面積に分布するためセル設置位置の不一致による誤差が低減されます。また、(c)の配置をとることでも散乱を抑えることができます。一方、蛍光強度が極めて小さい時には球面の折り返しミラーが付属したセルホルダーを用いることで、感度を増加させることもできます。粘土試料の蛍光測定では、スターラー付き試料室を用い、試料を撹拌しながら測定することが望ましいと言えます。色素分子はしばしば励起光により分解、または変成します。撹拌を行いながら測定することで、変成の効果を抑制できます。また、懸濁系においては試料の沈降を防ぎ、濃度分布を均一にする効果も期待できます。
 一方、リン光の測定は通常、酸素を脱気し極低温下(77K=液体窒素温度)で行われます。酸素は励起三重項を失活させリン光強度を減少させるので、その除去は重要となります。脱気操作は、アルゴンガスなどによるバブリング、もしくは凍結脱気法が用いられます。凍結脱気法とは、試料を凍結させ気相部分を真空脱気、真空ポンプとの接続を閉じ試料を融解、再び試料を凍結させ真空脱気、この操作を数回繰り返す操作であり、バブリング法に比べより完全な酸素の除去が期待できます。粘土試料の場合、均一系に比べ幾つかの注意が必要だと考えられます。まず、脱気操作による試料の変質に注意しなければなりません。例えば、凍結脱気法では粘土の凝集状態が変化する可能性があります。バブリング法においても通常の均一溶液中に比べ、酸素除去速度が遅いことが予想され注意が必要です。

2.2.3. 励起状態の観測
 粘土複合体中でのゲスト分子の励起状態は、レーザーフラッシュフォトリシス法により観測されます。レーザーフラッシュフォトリシス法はレーザー光により励起状態や反応中間体などの過渡種を生成させ、モニター光により過渡種の光吸収を検出する方法です。溶液系や透明なフィルムなどの試料では透過光を検出に用いますが、試料が懸濁溶液や粉末である場合、拡散反射光を検出する必要があり溶液系に比べ容易ではありません。粘土複合体中におけるゲスト分子の励起状態の観測例はまだそれほど多くありませんが、励起寿命などの報告例が近年増えてきています。
 いずれの測定においても、粘土複合体中のゲスト分子の状態に注意を払う必要があります。すなわち、ゲスト分子が、単分子的に存在しているのか、会合状態として存在しているのかによって、その測定結果は大きく異なってきます。基本的には、溶液中に比べ粘土表面ではゲスト分子の会合は著しく促進されます。ゲスト分子の存在状態に関する知見を得るためには、各スペクトルにおけるゲスト分子の濃度効果について検討することが有用でしょう。粘土複合体では特異な光化学的性質が観測される可能性があり、測定例が増えるに従い、新規材料の開発につながる事が期待されます。

3. 粘土複合体における色素の性質
 多くの粘土鉱物は、静電相互作用などによりゲスト分子をその層間に、または、その表面に取り込むことができます。粘土層間距離は可変であるので、ゲスト分子の大きさなどの制限も比較的少ないと言えます。また粘土鉱物には、正に帯電したもの、負に帯電したものなどがあり、多種多様なゲスト分子を適用可能となっています。取り込まれたゲスト色素は、溶液中とは異なる光化学的性質を有することが多々あります。ここでは、粘土と複合化した色素の光化学的性質について簡単に概観します。

3.1. 吸収スペクトル
 一般に、粘土複合体中における色素は、溶液中に比べ異なる吸収スペクトルを示すことがしばしばあります。その理由として、i)色素分子の会合、ii)色素分子のプロトン化、iii)粘土表面(酸素原子)と色素分子の電子的相互作用、iv)色素分子の吸着に伴う構造変化などが考えられています。先にも述べた通り、一般に粘土表面や粘土層間においては色素分子の会合は著しく促進されます。会合現象は色素分子の濃度に依存するので、粘土表面での色素分子密度を変化させることで会合挙動を制御することができます。しかし、通常は色素分子を極めて低濃度にしないと会合を抑制することはできません。特定のカチオン性ポルフィリン分子などでは、粘土のカチオン容量を満たすまで、会合すること無く粘土表面に吸着することが知られています。会合体にも様々な種類があり、その構造によって吸収スペクトルは異なります(図5)。色素の遷移モーメントがparallelな関係(θ=90°)にある時、その会合体はH会合体と呼ばれ、極大吸収波長は短波長側にシフトします。一方、色素の遷移モーメントがhead to tailな関係(θ=0°)にある時、その会合体はJ会合体と呼ばれ、極大吸収波長は長波長側にシフトします。
 ゲスト色素分子の濃度が極めて低い時には、非会合体の吸収を測定することができますが、この場合でもii-iv)の理由により、溶液中のスペクトルとは異なるのが普通です。例えば4価カチオン性ポルフィリン分子の極大吸収波長は、粘土との複合化により約60 nm程度も長波長シフトすることがあります。図6にカチオン性ポルフィリン分子の粘土との複合化前と後の色調変化を示しました。このように、色調が鮮やかに変化する場合も少なくありません。特に、色素分子の構造変化に基づくスペクトル変化は、極めて平滑な粘土シート表面の立体構造を反映したものであり、粘土複合体固有の現象として非常に興味深いものと言えます。

3.2. 発光スペクトル
 吸収スペクトルと同様に、粘土複合体中における色素は、溶液中に比べ異なる発光スペクトルを示すことが多くあります。特に色素の会合は発光挙動に極めて大きな影響を与えます。粘土複合体中で会合した色素分子の蛍光強度は弱いのが一般的です。しかし、J会合体においては発光強度の増大が観察されることもあります。粘土上におけるシアニン色素のJ会合体は強い発光を示すため、デバイスとしての応用などが検討されています。ローダミン系色素においても興味深い挙動が報告されています。また、励起二量体からの発光であるExcimer発光が観測されることもあります。会合を伴わない場合でも、粘土上の色素は特異な発光挙動を示すことがあります。粘土と複合化することによる劇的な発光挙動変化が報告されています。メチルビオロゲンは溶液中ではほとんど蛍光を示しませんが、粘土複合体中では蛍光強度が数桁増大します。極めて劇的な光化学的性質の変化として興味深い現象です。粘土表面では、溶液中に比べ、吸着色素の構造が固定される、吸着色素の構造が粘土平面の構造を反映し平面化することが予想されます。これらの要因に基づき、今後も色素の特異な発光挙動が見いだされていくものと考えられます。用いる粘土の種類によっては、粘土構成元素による発光の消光現象が起きる可能性があります。たとえば、粘土骨格にレドックス活性なFe2+/Fe3+などが含まれている場合、色素の励起状態が電子移動消光される可能性があります。高い蛍光発光効率を求めるようなケースでは粘土の選択に注意すべきでしょう。同様に粘土骨格が重い元素を含む場合にも発光挙動が変化する可能性があります。重元素は励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差を促進するためです。この重原子効果を利用して積極的に発光挙動を制御した例が報告されています。カチオン交換性粘土であるLaponiteの交換カチオンをRb+, Cs+, Tl+などの重元素に置き換えた場合、吸着分子の発光挙動が大きく変化します。重元素カチオンの量が増えるに従い、蛍光強度が減少し、より長波長側の発光が増大することが報告されています。すなわち、重原子効果により系間交差効率が増大し、リン光強度が増大したと考えられます。用いるカチオンにより、発光状態のスイッチングができた興味深い例です。

4. 粘土複合体における光化学反応
4.1. 光化学反応の実験方法
 光化学反応を行う際は光源が必須ですが、その代表的なものを記します。最も良く使われる光源は、超高圧水銀灯と高圧キセノンランプです。特に後者では、紫外部から赤外部まで連続したスペクトルを与え、輝度も大きくなっています。単純に光を当てれば良いと言う場合には、内部照射型の反応装置が用いられます。実際には、これら光源に、光路調整用の分散、集光レンズ、および波長調整用の分光器、光学フィルターなどを組み合わせて使用します。一般に、光化学反応は光子を無駄なく利用するために、試料以外の領域に光が広がらないようにレンズで照射面積を調整することが行われます。また、反応の量子収率(反応した分子数/吸収された光子数)を決定するために光量測定が必須ですが、その際にも適切な光学系を組むことが必要となります。波長調整は高い分解能を必要とする時は分光器を、強い光強度を必要とする時は光学フィルターを用います。一般には、光学フィルターの組み合わせで、半値幅十数nm程度の純度が得られます。光学フィルターは、短波長カットフィルター、干渉フィルター、赤外線カットフィルターなどを併用します。干渉フィルターは特定の波長を取り出すものですが、高次の干渉による波長も透過するため、適切なカットフィルターとの組み合わせが必要です。また、光強度を調整するために各種ND(Neutral Density)フィルターを用いることができます。これらのフィルターは市販品を用いることができますが、その透過率データなどをもとに最適な組み合わせを選択します。確認のため、紫外可視分光光度計により、フィルターを重ねたものの透過スペクトルを確認しておくと安心です。近年では、その高い波長純度、取り扱いの容易さなどから、光照射用の光源として発光ダイオード(LED)も用いられています。また、測定容器にも注意すべきです。通常、反応器はガラスで作られるが、パイレックスガラスの場合、約330 nmより短波長の光は透過しません。より短波長の光を照射する必要のあるときには石英ガラスを使用します。

4.2. 光化学反応の解析
 他の化学反応と同様に、定性、定量を行うのですが、光化学反応の効率は、通常量子収率 _で表現します。量子収率の定義は、一個の光量子により平均何個の分子が反応するかを示す量です。すなわち、実際には、反応した分子数を吸収された光子数で割った値となります。

φ = 反応分子数/吸収された光子数

 ここで注意せねばならないのは、量子収率の対象を明確に定義しなければならないことです。すなわち、原料の減少の量子収率なのか、生成物生成の量子収率なのかを明示せねばなりません。反応した分子数は、通常の反応と同様に、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、吸収スペクトル測定などから定量します。もう一方の吸収される光子数の測定は、化学光量計、光パワーメーターなどを用います。通常の溶液サンプルでは、これらの測定はさほど困難ではありませんが、懸濁系や固体サンプルではその測定は容易ではありません。粘土複合体サンプルではしばしばこの困難に直面します。透明溶液中では、試料を適切に調製する(照射光を全て吸収するように、照射波長での吸光度を2以上にする)ことで、照射された光子数と吸収された光子数をほぼ一致させることができます。すなわち、照射光量を見積もれば、吸収した光量を求めることができます。試料が希薄溶液で照射光を透過してしまう場合では、照射光強度から透過光強度を差し引けば吸収光量を算出できます。一方、光の散乱現象などにより、懸濁系などでは真の吸収光量を求めるのは極めて困難です。照射光量を吸収光量と近似することはできますが、実際の吸収光量は照射光量より小さいため、真の値より小さめな量子収率を与えます。試料の反射スペクトルなどをもとに補正をした量子収率を得ることもできますが、大きな誤差が予想されます。より正確な量子収率を得るためには、積分球などを用いた特殊な装置が必要となると考えられます。

4.3. 粘土複合体の光反応例
 これまでの検討例では溶液中に粘土鉱物-ゲスト複合体を分散させ、懸濁状態において光照射を行った例が多く見られます。また、溶媒が存在しない固相系での光照射も可能です。ある種の層状化合物では、巨大な単結晶を得ることが可能であり、単結晶そのものに光照射できるケースもあります。溶液系の場合は、粒径の小さい粘土を用い、かつ、無限膨潤させ粘土シートを一枚ずつに剥離させることでかなり透明な溶液を得ることができます。粘土濃度が希薄な場合には可視光領域でほとんど散乱が起きない条件を作ることもできます。
 粘土層間に特異な反応場を構築できることから、粘土層間における光化学反応が研究されてきました。粘土は極めて大きな表面積を有することから、少量でも有効な反応場を提供することができます。近年、自己組織化が注目されていますが、粘土層間における自己組織化は特に興味深いものです。粘土鉱物はその種類によって、正電荷、負電荷を有するものがあり、また、その電荷密度も広い範囲で変化させることができます。すなわち、強い静電相互作用によりゲスト分子をその層間に固定することができます。さらにゲスト分子間の立体構造や、疎水相互作用を利用することで、様々な配向や、構造を有する複合体を作成することができると考えられます。複合体の配向、構造を巧みに制御し、極めて興味深い選択性を示す光化学反応が報告されています。芳香族オレフィン類においては光照射により、cis-trans の光異性化、オレフィン二分子同士が反応する光環化二量化が進行します。溶液中では、光異性化が主であり、立体または位置選択的な光反応は進行しません。一方、粘土層間においては特定の光反応を選択的に進行させることができることが報告されています。すなわち、芳香族オレフィン-粘土複合体を光照射すると,オレフィン分子がお互いに逆平行状態で反応したsyn-head to tail(syn-HT)体が選択的に生成します。粘土層間で芳香族オレフィンが凝集吸着し逆平行二分子構造をとっているため、立体選択的な反応が進行したものと考えられます(図8)。このように、粘土層間は様々な分子を取り込む柔軟さを有しながら、かつ、規則正しい複合体構造を提供することができます。このような機能を有する材料は粘土等の層状化合物以外に殆ど考えることができず、ホスト材料としての粘土の有用性を示すものです。

5. 材料への応用
 粘土は様々な材料への応用が可能でです。詳しくは、第三章「粘土で造る新素材」を参照して頂くこととして、ここでは、粘土との複合化による色素の安定性向上について触れます。最近、粘土と複合化することによるメチレンブルー、ポルフィリン、フラビリウム色素等の光や熱に対する安定性の向上が報告されています。粘土層間にフラビリウム色素をインターカレーションさせたところ,熱に対する安定性が大幅に向上し,500℃加熱まで色調を保つことが報告されています。同様に化学的安定性、光安定性の向上も確認されています。また、粘土層間でのフォトクロミズム、電子リレー反応、光異性化反応など多くの興味深い研究が現在も進行中です。特に、色素の光学異性体の吸着挙動については興味深い特異吸着が報告されており、実用化にも応用されています。今後、これらの知見をもとに新規材料の開発に繋がってゆく事が期待されます。

6. まとめ
 本文でも述べてきましたが、粘土と有機物を組み合わせることは極めて興味深い事であると考えられます。有機分子は生体の中で蛋白質や脂質により、適切な構造、配置が達成され機能を発現しています。粘土鉱物が提供する反応場も、このような生体類似の機能を発現する事があるのではないでしょうか? 特に、色素と粘土の組み合わせは広く研究されてきてはいるものの、まだまだ新たな可能性を秘めていると考えられます。本稿が、わずかでもそのような研究の一助になれば、望外の幸せです。
 なお、本稿をまとめるにあたって、鹿児島大学・河野元治先生より多大なご助力を賜りました。また、東京都立大学 井上晴夫教授には多大なご助言を賜りました。江口美陽学振特別研究員には多大なご協力を頂きました。この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。

参考文献
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